前の彼女の存在

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「もう少し自分が若ければ、考え方も違ってたのかな……」 29歳の結婚適齢期に、わざわざ誰も望んでいない恋に足を踏み入れるなんて。 そんな事、簡単にはできない。 だけど類の真っ直ぐな瞳を見ていたら、足を踏み入れそうになってしまう。 偽りのない、私への愛情。 ストレート過ぎる、甘い言葉。 照れくさいのに嬉しくて、私を簡単に惑わせる。 結局渚ちゃんが帰った後のお客様の接客のときにも、何度かぼんやりしてしまう事があった。 この日は、とにかく散々だった。 こんなんじゃ、ダメだ。 ちゃんと、気持ちを入れ替えないと。 そして今日1日の反省をしながら片付けと帰り支度をしていたとき。 携帯の着信音が、店内に響き渡った。 相手を確認すると、『椿 類』 出るか出ないか迷いながらも、結局私は電話に出た。 「もしもし」 「あ、莉菜?今、まだ店?」 「うん、今片付けと帰り支度してるとこだけど……」 「良かった。ちょっと今から行くから待ってて」 「え、今から行くって……」 私の声を遮り、電話はブツンと切れてしまった。
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