16年間の優しい嘘

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「おかしくないってば。ごちそうさまでした!」 無理やり話を切り上げて、空いた食器をキッチンまで持って行く。 「あ、いいよ姉ちゃん。それ、俺が洗っておくから」 「……何、どうしたの急に」 普段食べ終わった後の食器なんて、テーブルに置いたままのくせに。 「何って……姉ちゃん風邪引いてんだから、早く布団入って寝た方がいいだろ」 「……ありがとう」 豪はたまにこういう優しさを見せるときがある。 だから私は昔から、弟にはついつい甘くなってしまうんだ。 美月と賢にも、学生の頃からよく言われていた。 私は豪に甘いって。 賢には、『お前はブラコンだ』とか失礼な事を言われた事もあった。 「それより姉ちゃんもさ、早く失恋なんか忘れて、新しい恋した方がいいよ」 「もう……またその話?」   「心配してるんだよ一応。姉ちゃんには、やっぱり幸せになってほしいからさ」 「……豪に言われなくたって、幸せになるし」 なんて、強がってみたけど。 強がらないと、弟の思いがけない言葉に思わず泣いてしまいそうだった。
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