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「……泣くなよ」
そう言われるまで、涙が溢れている事に気付かなかった。
私は慌てて頬を伝う涙を拭う。
「……泣いてない」
「俺、初めて見たかも。お前が泣いてるとこ」
「泣いてないってば」
「素直じゃねーなホント。何、泣くほど嫌なわけ?俺の事」
「そうじゃなくて……!」
「ほら、これ。使え」
そう言って賢は、チェック柄のハンカチを手渡してきた。
「お前どうせ、ハンカチとか持ってないだろ」
「……ハンカチ持ってる男の方が、どうかと思うけど」
「はぁ?お前なぁ、今どき男だってハンカチぐらい……」
「ウソ。……ありがと」
私は、賢のハンカチで涙を拭いた。
どうして今、この場面で泣いてしまったのかなんてうまく説明出来ないけれど、涙はしばらく止まらなかった。
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