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君はいつも私の前を歩いている。 こっちを向いて。私を見て。 大きな君の背中に手を伸ばす。 届きそうで届かない。あと少し。ほんの少し。 君を呼ぶ。私に気づいて。 長い足が立ち止まる。 ゆっくりと君が振り返った。 私を抱き寄せようと伸ばした逞しい腕。 嬉しくて腕の中に飛び込むけれど。 君の笑顔が眩しすぎて、私は目を覚ます。 今日も君の夢を見た。 いつも同じ夢。 物心つく前からずっと見ていた。 君は、赤い糸で結ばれた運命の人。 どこにいるの? どこにいても必ず見つける。 たとえ宇宙の果てだとしても。 君を探すためにこの会社に入ったのだから。 こんなに私に想われて、君は宇宙一の幸せ者。 早く君に会いたい。 もしかして、すぐそばまで来てたりして。 目を閉じると、そこに君がいる。 愛しくて、切なくて、嬉しくて、ときめいて頬がだらしなく緩む。 ドゥン! 鈍い音が頭がい骨を伝わり耳に届く。 音からワンテンポ遅れて、額を痛みが襲った。 「痛っ……!? 何? 何!」 何が起こったのか、わからない。 わかるのは酷い痛みだけ。 「デコパンチだ」 夜空はフレームレスメガネを、中指で神経質そうに位置を直す。 その平然とした態度には悪気どころか、私を心配する様子は一ミクロンもない。 「夜空さん! 顔はやめてくださいって言ってるじゃないですか! 女の子の顔をパンチするなんて信じられません! パワハラ! パワハラですよ!」 夜空は冷たく整った顔を、嫌悪に歪めた。 「うるさい。君は耳障りな夏の蚊か。カウンターデスクに肘をつき、勤務中バカ面でボーっと呆けていたことを棚に上げて、指導係の私に文句を言うとは。文句だけは一人前だな。社会人としての自覚はあるのか? いつ何時お客様がいらっしゃるかわからないんだぞ。それにだ、その顔、額くらいへこんだところで見た目に大差ない」 早口でまくし立てる。 ブッチーン! 私は立ち上がり、夜空を指差した。 「酷い! モラハラ! モラハラですよ!」 「給与泥棒に成り下がるつもりなら、その顔サンドバックにするぞ」 威圧的な眼差しで私を睨みつける。 キッと睨み返す。 負けないんだから。
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