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「支店長助けてくださ~い」
側を通りかかった支店長を呼び止める。
小柄な身体がぴたりと止まり、くるりと振り返った。
そしていつもの笑顔で私たち二人を見ると、床を滑るように近づき、変わらない笑顔を私の顔の至近距離に寄せた。
「今日も仲がいいな。君たちは良いコンビだ」
近い。支店長顔近い。
笑顔は他人との距離を近くするものだと思っていた。
だが完璧にに作り上げた笑顔は壁になる。
顔は近いけど、何を考えているのかさっぱり読めない。
押し除けたい衝動を堪え、笑顔で対抗を試みるけれど。
支店長の笑顔に圧倒され、うまく笑えず、頬が引きつる。
オールバックに鉄壁の笑顔。不気味だ。
ポマード独特の匂いも苦手。
総合的に支店長は苦手だ。
支店長は次に夜空に顔を近づけた。
「私は人を見る目がある」
人を見る目、全然ないですから。
夜空は無言で支店長の顔を押しのけ、遠ざけた。
気にする様子もなく、支店長は胸ポケットからコームを取り出すと、乱れていない髪を整える。
押しのけてもいいのかと納得する。
問題はそこではない。指導係だ。
支店長、オールバック整えてないで、助けてください。
可愛い新入社員がいじめられてるんですよ。
可愛い私の顔がブスになったらどうしてくれるんですか。
運命の人と出会う前にブスになったら、訴えてやる。
私、日向華はこの春からAIS旅行会社で働き始めた新入社員。
入社した日本支店は、押上駅またはとうきょうスカイツリー駅が最寄り駅。
浅草通りに面していて、郵便局が目印。
と言っても、看板は無い。
ここが旅行会社だと気づく人はいない。
業務に支障は無い。
押上と言えばスカイツリー。
毎日、スカイツリーに始まりスカイツリーに終わる。
私にパワハラをするのが、夜空流星。
私の指導係だ。
イケメンだし、スタイル良し、仕事もできる。ただ性格が悪い。
可愛い私の顔をにパンチするなんて、頭がおかしいとしか思えない。
それとも愛の裏返し……?
私が別の男ばかり追いかけてるから?
アピール? アピールなの!
な~んだ、可愛いとこもあるのね。
でも私には運命の人がいるの。
夜空さんではない。
地球人の夜空さんであるはずがない。
だって私の運命の人はーー
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