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「学部こそ違いますが、話は教授から伝わっているんですよ。事件の容疑者として、うちの大学の関係者があがっているとか」辻霧はわざとらしく周囲に視線を巡らせる。「ぜひ詳しいお話を伺いたいのですが、いかがですか。ここだと人目がありますからもっと静かな場所で」
「構わないわ」
即座に了承する。本来捜査情報を民間人に漏らしてはならないのだが、捜査の最中に脱け出すような彼女には、それは些末なことでしかない。それに、また彼に力を借りたいとも思っていたのだ。
「では聞かせてください。熱いコーヒーでも飲みながら」
「いいね。で、どこにする?食堂かな」
「いいえ。もう閉まっていますよ。代わりに良いところへ案内しますよ」
彼が勿体つけて案内したのは、構内に併設された喫茶店だった。最近は大学構内に民間企業の店舗が入っていることが多いのだ。店内は白を基調とした内装だった。そのなかにあって、黄緑やオレンジといったカラフルでデザイン性の高い椅子が目に映える。
二人はブレンドコーヒーを注文すると、奥まった席に腰を落ち着けた。
「あれからケガの方は大丈夫なのかしら」
夏の事件の話だ。辻霧はその事件で頭を殴られて、気を失うほどだったのだ。
「とくに異常が見つかることはありませんでしたよ。障害が残るということもありませんでしたしね」
「それは良かったわ。ところで資料を抱えているようだけれど、忙しいんじゃないかしら」
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