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辻霧は鼻で笑った。
「ちょっとしたレポートを書かなければならないのですが、そんなものはチャチャッとでっちあげればいいですからね。それよりも、現実の事件について現役刑事から窺う方が有意義だとは思いませんか」
音無はそういうものかしらと首を傾げる。
彼は一体どういった道に進むつもりなのだろう。
「幸人。って、あれ?刑事さん」
二人の方へ向かって歩いて来る女性がいた。
こちらもまた、音無刑事に負けず劣らずの美人だった。
「どうしたんだ冬実。こんなところへ」
仮にも自分の通う大学をこんなところと言っていいものなのだろうか。
冬実なる女性は、音無の顔を知っていた。音無の方も、彼女が誰であるかをすぐに思いだした。
「辻霧君の恋人の、麻香冬実さんでしたね。新聞記者の」
「あ、やっぱりあの時の刑事さんでしたか。今日はどうされたんですか。やはりあの事件の捜査ですか」
「ええ」
サボタージュ中ですと言う気は毛頭ない。
「麻香さんも事件の取材のようですね」
「丁度いいじゃないか。今から事件の話を聞かせてもらうところだったんだ。冬実も一緒でもいいですよね」
辻霧が無邪気に訊ねる。
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