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「構わないわ」と音無は躊躇いもせずに了承したが、民間人に不用意に情報を漏らすのはご法度だ。もっとも、どうせ駄目だといったところで後に辻霧の口から伝わることは目に見えているので、隠しだてしたところで意味はないだろうという考えもあった。
さすがに音無刑事も思慮の足りない人物ではない。それは辻霧というただの大学院生の能力を、彼女が高く評価しているという証左でもある。
「とりあえず冬実も何か頼めば? 」
「そうね」
当然のごとく辻霧の隣に着座すると、手を振り上げて店員を呼んだ。
彼女たちが口々に漏らす『事件』というただならぬ単語。その内容は、物騒の一言ではとても片付けられない内容だ。冬実の注文したカフェモカが運ばれてくると、やっと本題に入った。
「辻霧君は事件のことをどの程度知っているのかしら」
「新聞で報道されている内容くらいですよ」
彼はそう前置きしてから、知っている事実を羅列する。
「ことの始まりは十月でしたね。お隣の練馬区のごく近い範囲で、十月、十一月、十二月と空き巣被害が一件ずつ発生した。十万か二十万相当の金品が盗まれたとか。十二月の事件は、事態は空き巣ではおさまらずに強盗殺人になったとか。この連続した三件が同一犯だとされているそうですが、その理由はなんでしょうか?」
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