紫陽花は色褪せない

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「もしもし?」 恵似子が声を発すると、しばらくして、幼い女の子の声が聞こえた。 「大丈夫だよ、恵似子ちゃん。泣かないで。カナコは恵似子ちゃんの中に生きているの。 カナコは恵似子ちゃんと一緒に生きているから。」 声は聞いたことが無かったけど、それはカナコの声だと思った。 恵似子は電話ボックスの中で号泣した。 「カナコ、学校行きたい。だから、恵似子ちゃんも学校、いこ?」 「うん、わかった。私、ちゃんと学校行く。」 「よかった。それとね、恵似子ちゃんにお願いがあるの。」 「え?なに?」 「恵似子ちゃんに、私の魂を預かって欲しいの。」 「えっ?魂?」 恵似子がそう答えると、電話は切れてしまった。 魂を預かるって・・・。 電話ボックスを出ると、月明かりを受けて、ぼんやりと輝く石を見つけた。 きっとこれが彼女の魂なのだと思い、そっとその石を拾うと大切にポケットにしまった。 その日、すぐに家に帰ると、心配した両親が恵似子を抱きしめた。 その次の日から、恵似子は人が変わったように、学校に通い始め、一生懸命勉強し、有名校、有名大学へと進学し、大学院を経て、今の研究所へと就職した。  数年後彼女は科学者への道を歩むわけだが、恵似子の研究は不滅細胞だけにとどまらなかった。 恵似子は錬金術を信じてやまなかったのだ。 恵似子が拾った石は、何年時を経ても輝きを失わなかったからだ。  恵似子はその石にはカナコの魂が宿っていると信じてたし、それは賢者の石でもあるという結論に至った。 「待ってて。あなたを必ず、生き返らせて見せる。」 準備は整っていた。彼女が長年かけて、用意してきた彼女にふさわしい体だ。 あの子は、最高の体と容姿を用意してあげなければならないのだから。  科学者としての彼女の実験は失敗に終わった。 彼女は、研究所を追われた。チームリーダーにまで上り詰めた彼女だったが全く悔いはなかった。  数年後、彼女は幼い子供と暮らしはじめた。  彼女の実験は、失敗には終わっていなかったのだ。 不滅の細胞も、錬金術も見事に成功して、彼女はカナコをよみがえらせることができた。 ただ、自分の命を永遠にすることはかなわなかった。 彼女が死に、カナコは永遠の少女のまま一人ぼっちになった。 雨のふる中、一人で夜の公園のベンチに座っていると、公衆電話が鳴った。
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