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「ま、自分の話はそんなトコっす。
………でも不思議っすねぇ、何でジンベイ先輩覚えて無いんすかね。
日常茶飯事だったってんなら分からんでも無いっすけどね。
ジンベイ先輩と一緒に居た限りそんなことも無さそうっすし。」
まったくもってその通り、生来争いが好きな質ではないのだ。
正直、亀山先輩達に誘われても困るのだ。
柔道なんかもできないし、分不相応だと思う。
「もしかしたら、ジンベイ先輩じゃ無かったんすかねぇ。」
しみじみと遠くを見つめて呟くサメコ。
「今更だ、後の祭りって知ってるか?」
「そんぐらい知ってるっすよ。
それに、人違いだったからって態度変えるような尻の軽いオンナじゃ無いっすよ、ウチは。」
「そうか。
……それを聞いて喜べばいいのか?俺は。」
「喜んだらいいんじゃないっすか?
ウチみたいな可愛いコに慕われるなんて、そうそう無いっすよ。」
「自分で言うな。」
「それもそっすね。」
微笑むサメコ。
今までの喧しい印象とは一線を画すその表情に不覚にもドキッとした。
………慕われても良いかもしれない、と思ってしまった。
「……ジンベイ先輩、心当たりないんすか?
記憶がトんじゃうような何か。例えば事故とか。」
「ねぇよ、そんなもん。
………ただ、他人説なら一つ心当たりがある。」
「え?」
鳩が豆鉄砲くらったような顔だった。
あだ名はサメだけど。
「ちょ、どーゆーことっすか……え、いや、え?」
真っ赤になってパニくるサメコ。
急に言われたらそりゃあ驚くよな。
真っ赤になってるのは何でだろうな。
ちょっと待て、呼び出す。
そう言って連絡してから五分、そろそろ来ても良い頃合いだ。
サメコをベンチに座らせ自分は立って周囲を見回すと、ちょうど来た道から俺と体格のそう変わらない大柄な男がやってきた。
やがてその男は俺たちの前で足を止め、開口一番、
「何の用だ、甚平。」
「ちょっとあってな。
………悪い、兄貴。」
ポカンとするサメコ。
この男こそ他人説の根拠。
俺、海堂甚平の兄こと海堂長介(ながすけ)だ。
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