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「あのな。イメージも雰囲気も大切だけど、おまえは飽く迄脚本家だろう。実際絵にしていくのはおれたちだ。そして、指揮をとるのはおれだ」
祐次は万年筆を払いのけた。
「原。おれの脚本は雰囲気が重要なんだ。分かっているだろう。それを映像にするのがおまえの仕事じゃないのか」
ふたりは互いに自分の意見を通そうとし、次第に喧嘩のような言い争いに発展していく。これはいつものことだったので、仲間たちは気にも止めなかった。どうせ、最終的には祐次の意見が通るのだ。
チーム原という名前ではあった。寿志の名を冠している通り、彼が監督であり演出であり、このチームをまとめるリーダーだった。しかし、寿志が脚本を書いてくれと祐次を口説き落として、ふたりでメンバーを募るところから始めたチームだ。寿志が彼の脚本に惚れ込んでいる以上、チームの中では自分の意見を強く持ち、弁も立つ祐次が自然中心になっていた。
この時も、やはりヒロインの彩乃役は砂森那美絵になった。そしてこの映画“観覧車と空”は市で主宰している小さなコンクールに出品され、見事入賞を果たした。
「映像と台詞まわしが美しい。ヒロインの雰囲気が良い」
と評された。
沸き立つメンバーに比べて、祐次は冷静だった。彼にしてみれば計算通り。自分の描いた筋書き通りの受賞だった。
表立って祝福されるのは監督である寿志だ。彼は撮影スタッフから贈られた花束を持って照れ臭そうに祐次の近くに来て、
「おまえの判断が正しかった」
と握手を求めてきた。祐次はその手を握り返した。
地元の新聞が取材に来た。若い天宮美紗という女性記者は、監督と脚本のタッグに視点を向けて、寿志と祐次のふたりに取材をしていった。実際に発行された記事を見ると、祐次に関する記述の方が明らかに多かった。撮影チームの中で、リーダーはやはり祐次なのだという雰囲気が強くなっていった。
寿志がそれについて、どう思っていたのかは祐次にはわからない。
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