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「……それって」
「華岡市学生映画コンクールでの受賞はなかったことにしろと。初投稿で大賞受賞の期待の新人シナリオと売り文句をつけるつもりらしい」
「そうか」
寿志はもう笑顔を消していた。ただ一言、
「わかった」
と答えただけだった。
祐次は居た堪れなくなり、
「じゃあな」
とだけ告げて席を立った。二人分の伝票を持って立ち上がったのは、せめてもの罪滅ぼしのつもりだった。
その後、祐次はチーム原の脚本家を降りた。単発のテレビドラマになった後も、深夜枠の連続ドラマなど順調に仕事は舞い込み、彼は大学を中退した。
チーム原はというと、祐次の脚本に心酔していたメンバーが何人か辞め、脚本家を募っても祐次の後では誰も書く者がおらず。寿志自ら書いてしばらく活動を続けたものの、自然消滅してしまった。
仕方なかったとはいえ、祐次は自分のせいだと思っている。
なし崩しに寿志たちとも連絡が取れなくなった。風の便りに、また映画を撮っているなどと聞いたこともあったが、最後には業界に残って活躍しているのはチーム原の中で祐次だけになった。
仕事が忙しくてクラス会にも顔を出さないでいた祐次に、たまに昔の仲間からさっきのように連絡がくる。
『原くん結婚するんだって』
彼女の声が耳に残る。
『相手、天宮さんだって。覚えてる? 新聞記者の天宮美紗って人』
祐次は深い意味もなく溜息をついて、ジーパンのポケットから煙草を取り出した。軽く箱を叩いてフィルターをつまんで一本引き出し、唇に咥える。
元気でいるのだ、と思った。幸せなのだ、と。どういう経緯を辿ったのかは知らないが、あの時の新聞記者との挙式が来月だというのだから。
ただ、それを寿志本人の口から聞けないのが、仕方ないとは思っても祐次は少し寂しかった。
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