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二十八歳の三月、
高校の卒業式に埋めたタイムカプセルを掘り出しに来たのは、たったの三人だった。
別に、クラス皆で決めたことじゃない。仲のよかった三人組が勝手にやったことだ。
つまり、全員がこの日の約束を守ってここに来たのだ。僕らは小学一年からの幼馴染だからね。
ワタル、アヤミ、僕…
三人が中学まで通っていた、書道教室の裏にある大きな桜の樹の下、
それもフェンスと樹の間の、誰も掘り返しそうにない端っこに小さな缶を埋めた。
いい海苔の入っていた、四角い缶だ。
「シャベル、持って来てくれた?」
アヤミに言われて、僕は百円均一の袋をガサガサいわせてそれを取り出す。
昨日、メールで頼まれたんだ。
卒業後、地元に残ったのは僕だけだったし、書道教室はほんの近所だったから“いいよ”と引き受けた。
二人は、職場のある東京から戻ってすぐにここに来るって言っていたし…それなら荷物は少ないほうがいいだろう?
シャベルっていうから大きなのを想像していたんだけれど…
今朝母親が渡してくれたのは、ガーデニング用の小さなやつだった。
「なんだ、わざわざ買って来るならこっちで用意したのに。」
ワタルがすまなそうにするから、慌てて訂正する。
「違う、違う。
母さんにシャベル貸してって言ったら、これに入れてよこしたんだ。それも、こんな小さいの。」
「そう…。」
ほっとしたようにほどける表情は、昔とちっとも変わらない。優しくて、穏やかで。
そんなところに、アヤミは惹かれたのだろうか。
自分はがさつでおてんばだっていうのにな。
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