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“あれから十年後…”
ノートの切れ端で、予言はそのまま途切れてしまっている。
どうなっているのかもわからない未来を、想像することすら諦めてしまった古いインクの文字だ。
僕はそんな自分の手紙に一筆書き足して、二人に渡した。
それを目にしたワタルは、長く美しい髪の中で泣いた。
落ちた涙はスカートの裾を掠めて、パンプスの先を濡らしている。
その背中を撫でるアヤミの手は、
力仕事でケガを繰り返したことを窺わせ、男物のスーツに包まれた体は、よく鍛えられていた。
この姿で僕に会うのは、さぞ怖かっただろう。
あの手紙を書く手は、酷く震えていただろうな。
それを考えると、胸が締め付けられる思いがした。
でも…二人共、見てすぐにわかったよ。
ちょっとびっくりはしたけれど、不思議と女の人がワタルで、男の人がアヤミだって自然に。
驚くことないだろう?僕らは幼馴染なんだから。
優しいワタルに強いアヤミ…ずっとそうだったじゃないか。ずっと…。
“あれから十年後…僕らは相変わらずだったね。これから十年後も、きっと相変わらずでいような。”
それは二人への手紙の返事で、僕の思い描く未来だ。
アヤミとワタル…二人が惹かれ合ったのは自然なことさ。
ただ、“男の子”と“女の子”が恋をしただけなんだから。
僕らは、この手紙をもう一度埋めた。
“また会おうな”…そう約束をして。
そうでもしないと、大人になった僕らは、日々にかまけてしまうからね。
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