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え…。
目の前の光景を疑った。
何故なら、ボクの前には一人の少女がいて、今にも手すりの外側へ飛び出そうとしていたからだ。
考えるより早く身体が動いた。
ボクは必死に腕を伸ばし、彼女を捕まえる。
力任せに引き寄せた反動で、ボクの身体は強くコンクリートに叩きつけられた。
「…痛っ」
身体も痛かったが、先ほどまで何も感じなかった足に強い痛みが走る。
ボクは背を丸めて足を抱えた。
使い物にならないクセに、痛みだけ感じるなんて──。
その時、足を押さえていた手が不意に温かくなった。
見てみると、彼女の両手が覆いかぶさっている。
「なんで…」
ボクの足を気遣う仕草を見せているのに、彼女の声と表情は氷のように冷たかった。
「なんであたしの邪魔するの?なんでケガしてまで助けたりなんかするのよ!!」
彼女の瞳から、みるみるうちに涙が溢れ出す。
悲鳴を上げるようにぶつけられた言葉に、ボクはたまらなく苦しくなった。
「もう…邪魔しないで」
彼女は立ち上がり、もう一度手すりに向かおうとした。
しかし、それはできない。ボクがさせなかった。
しっかりと掴まれた腕を、彼女は懸命に払いのけようともがく。
向こうにしてみれば、いい迷惑だ。
もう何もかも終わりにしたいと強く願って、それだけを願っているのに、邪魔される。しかも、見知らぬ人間に。
いや…全く知らない人間でもないか。
彼女の顔をマジマジと眺めて、記憶を辿る。
彼女は確か…同じ学年、クラスは隣だったか。名前まではわからないけれど。
「目の前で死なれると目覚めが悪い」
ボクの言葉に彼女はキッと激しい視線を向けた。
「あんたがこんなとこにいるのが悪いんでしょ?!勝手に後から来といて、その言い草はなんなのよっ」
「…それもそうか」
確かに。彼女の言うことはもっともだ。
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