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「…だから、ここへ来たんだね」
掠れた声で呟く彼女に向かって頷いた。
他人からすると、たいしたことない理由かもしれない。
選手として走れなくなったって、ただそれだけだ。
生きたいのに生きられない人がたくさんいる。
でもボクは、足のこと以外なら健康で、いくらでもこの先を生きていくことができる。
なんて贅沢な悩みなのだろう。
何度も何度もそう思い込もうとした。そうできれば、どんなにいいかと思った。
──でも、できなかった。
ボクにとって“走る”ことは、“息をする”ことと同じだ。
“生きる”ことと同じ。
それができなくなれば、その先には“死”だけだ。
「これ…」
彼女を見遣ると、その手にはスマートフォンが乗せられていた。
画面を見ると、それは掲示板のようだった。
「何のページ?」
尋ねると、彼女は黙って自分のスマホをボクに手渡す。
ボクは恐る恐るそれを受け取り、画面に目を移した。
「…!」
そのページは、所謂「学校裏サイト」というものだった。
メディアでその名を聞いたことはあったが、自分の学校にもあるとは思わなかった。
ボクは部活三昧で、そういったことに全く疎かったのだ。
ページをスクロールしていく度に気分が悪くなる。
ゾッとするような罵詈雑言の嵐。
人というのは、ここまで無責任になれるのか、ここまで残酷になれるのかと、眩暈がした。
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