エイミーの花

2/4
前へ
/4ページ
次へ
「私ね、もうすぐなの」 突然告げられた言葉に呆然とする。 口をはくはくと動かすしか出来ない僕を見つめ、彼女はゆったりと笑った。 一瞬、時間が止まってしまったみたいに静まりかえったこの空間の中で。 いっそ、このまま時間が止まってしまえばいいのに。 そう願う僕を嘲笑うかのように小さな葉が1枚、はらりと落ちた。 もう動くことのない、彼女の手の上に。 いや、正しくは彼女の手"だったもの"の上に。 彼女はもうすぐ花を咲かせる。その命と引き換えに。 通称"寄生木(やどりぎ)病"、原因不明の奇病だ。 身体の内側から木の根に侵食されていき、やがては樹木と同じになってしまう。 花が咲くのはその人の命が尽きることを示し、そしてその花が散る時、その人に関する記憶も全て消えてしまうのだ。 治療法はおろか実態すら未だ詳しく分っていないその寄病は、奇しくも彼女を選んだ。 花のようにふんわりと笑う、目の前の彼女を。 「……もう、いいんだよ」 少しだけ潤んだまっすぐな瞳が僕を射抜いた。 意を決したようなその表情に、思わず息をのむ。 「な、に……言って」 やめろ、聞きたくない。 「もう……ここに来なくてもいいんだよ」 頼む、やめてくれ。 「貴方は、ここに……いるべきじゃない」 頼むから…っ。 「だから……」 「……なんでそんな、笑ってられるんだよ…っ、なんで!」 ーよりによってなんで、君なんだ。 大声で叫んだ僕に彼女は目を丸くした。 柔らかなその声を、彼女の紡ぐ言葉を、今だけは聞きたくない。 まるで喉がぎゅうっと締め付けられているように苦しくて、シャツの胸元をぎゅっと握った。 「……ごめん」
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加