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かつて華族の屋敷だったその店内は、アールデコを基調とし
た室内に改装されていた。
シックでモダーンなデザイン。幾何学模様をモチーフにした
ガラス製の美しい照明。
ゆったりとした時間の流れの中、衝立を模して造られた平面
ディスプレイの中で、映し出されている映像情報は、唯一この
場の空気にそぐわなく感じられた。
男が叫んでいる。
MC:
「宇宙へ行きたいか~?」
参加者:
「おーっ!」
MC:
「罰ゲームは怖くないか~?」
参加者:
「おーっ!」
A:
「負けたら宇宙空間に射出だってよ?」
B:
「マジかよ?怖ぇー!」
アシ子:
「ハイ。安全の為、参加者の皆様には義体化をして頂いており
ま~す♪」
末成り山商店街の一角、喫茶「遊郭」にて。
触れれば、儚く散ってしまう花のような美少女花魁と、紬を
着た若者が、衝立ディスプレイに映し出される平面映像を見な
がら、和やかに語らっている。
玉葱太夫:
「ねえだんさん、あれは一体、なんでありんすか?」
若旦那:
「ああ、何でもクイズをしながら太陽系を1周するという、
知力体力時の運が試されるという、クイズ番組だそうだ」
太夫:
「へえ。それはまた酔狂な事…それで一体、クイズに優勝した
ら、何があるというのやら」
若旦那:
「優勝賞金100万ドル。副賞には火星の一等地の高級別荘が当
たるそうだよ」
ディスプレイを眺めながら、ゆっくりと紫煙を燻らせる若旦
那。その肩にそっと、もたれかかる玉葱太夫。
太夫:
「火星の別荘…あちきは月の方が好きでありんす。月の海猫屋
旅館の、竹の間から見る地球が好きでありんすから」
若旦那の逞しい二の腕にしがみ付きながら、何かに想いを偲
ばせる太夫。
若旦那:
「どうした?昔の事でも思い出したのかい」
太夫:
「あい。けれど、今のあちきは籠の鳥。願えど叶わぬ夢であり
んす」
しばし何かを考える若旦那。彼は家業を継ぐ気などはサラサ
ラ無く、実はこの玉葱太夫にぞっこん、べた惚れなのだった。
そして意を決したかのように叫ぶ。
若旦那:
「よし、決めた!俺は家を出る。俺が自分で貯めた全財産を叩
いて君を月に…宇宙に連れて行く」
太夫:
「ああ、だんさん…あちき、嬉しい…」
すっくとソファから立ち上がり、若旦那はキメポーズをす
る。そして、力強く、大夫に向ってこう言った。
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