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宣願皇紀153年、雨の月。
この土地の習わしとして、乾期の終わりを告げる雨は恵みの象徴として尊ばれる。
大陸からの騎馬民族に追われ、ここに住み着いたのが先祖とされる。
今は大国の領土ではあっても、祭りには寛容だ。
街では緑の葉を丸め杯のようにして、今年初めての雨=甘露を飲み干すと幸運を呼ぶと言われている。
また、猫が顔を洗う仕草が雨を呼ぶとして、この時期には猫を大切にする。
猫の形の軒飾りも色とりどりで目を楽しませてくれる。
とはいえ古今東西、祭りにおいて人々が求めるのは、喧騒や日常からの解放感だろう。
特に若者にとっては由来など話題にもされない。祭りにかこつけて行われる恋の鞘当ての方がメインイベントだ。
葉を丸めて雨を飲むという習わしも、娘たちは軒先やテラスで手足を濡らす程度だ。
そこへ男性が葉を丸めて渡す。
最近では葉の意匠のグラスを差し出すのも流行っているらしいが。
目の前で、白い喉をこくりと動かして若い娘が飲み干す様子はなかなか良いもので、口の端からつつー、と零れるのもまた大変良く
うっかり胸元に溢したりしようもんなら、もうまさに男性にとっては祭りである。
あら濡れちゃいましたね大変だお嬢さん着替えましょうついでに幸運の雨にもっと濡れましょう
と手を引かれ付いていけば、祭り第二部・後夜祭の始まりである。
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