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乾いた季節に別れを告げ、大切な人と過ごす。
由来はどうあれ、恵露節はそういう夜だ。
便乗しているのは恋人同士だけではない。
客商売も恩恵を受けている。
特にここのような「一夜の恋」を売る店はーーー
高級妓楼「睡蝶楼」では薄絹を纏った妓女たちに客が水をかけるという趣向だ。
その騒がしさや楼の上の階からの矯声で、いつもより女たちの心も燃えている。
そんな中で一人、いつもと同じように襟元まできつく閉めた装いの女がいた。
雪猫の歌姫と呼ばれる、ハーニャだ。
この国が制した、大陸の端の異民族であることを示す白銀の髪。白い肌。
いつも白い着物を着ている。
その姿は高地に住むと伝えられる雪猫を思わせた。
黒髪の女たちの多い中でハーニャは目を引いた。
ここは西域へのルートなので多種多様な女を揃えている。異民族との混血の少女や、キャラバンの流浪の女が産み落としていくことさえある。
交易品と人種の交わる地。
そんなこの地でさえ、ハーニャほど色素の薄い者は居なかった。
物珍しさから買われたが、娼婦としては使い物にならなかった。言葉も子供のようで作法もぎこちない。ぽつんと座ったままでは、客の熱も引く。何度教えても体も心も開かない。
ただ、歌は素晴らしかった。
ハーニャの歌は故郷のもので、意味はわからずとも胸にしみる。
今ではこちらの詩曲も覚えて、宴席で人気となっていた。
宴席への廊下で、酔った女に絡まれた。
「あら、今年は氷みたいなあんたも余裕ね。ユン将軍を捕まえて大きな顔をして」
紅の剥げた唇は、ぽってりとしていて色っぽい。もう今日の客は済んだんだろうか。
そう考えて、女の不機嫌に合点がいく。
今日は、大切な家族と過ごす日でもあること。
上客でも泊まっていく可能性は低い。
こんな日はしつこそうだから無視する。
「なによ、どうやって鋼の将軍に取り入ったのか知らないけど、あんたが楽しませられるとは思えない!猫女!」
背中に投げられた言葉に、つい答えてしまいそうだった。
(こっちが聞きたい!)
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