雪猫と鋼の出会う時

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ユン将軍は少年たちの憧れの存在だ。 異国の農民の出だそうだが、戦場で名を高め身一つでのしあがった。 文字を知らぬ農民の間でもユン将軍を主人公にした画本は人気だそうだ。 また貴族の派閥に染まらぬ将軍というのは初かもしれぬ、ひとたび前線を駆ければ自らの体で士気を高める。 忠誠心厚く醜聞もない。 噂では、さる貴族が婿にと打診したとか……。元の身分はどうあれ、英雄に手綱をつけると旨味も多いのだろう。 「将軍も階下(した)で雨の催しを御覧になってはいかが」 竪琴の調律をしながら言うと、首を振って否を示す。 だろうと思った、が、相変わらず無口な男だ。 「私には馴染みのない祭りだ。異国の出なもんでな」 おお、喋った。 珍しい。雨が降るんじゃないか。あ、もう降ってた。 無駄にいい声なんだけど、慣れるほど喋ってくれないのでいつも腰にくる。 「どちらの……?」 いいかけてハッとした。 こういう場で、聞き出して良いことではなかった。 ユン将軍はどこの出身か謎なのだ。 「構わない。隠しているわけではない。混血なので、憶測を生むのだが。西の寒い地域の出身だ」 ああそれでは近いのかもしれないと思った。 ハーニャの生まれも、その先のずっと向こうの寒いところ。
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