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「昔話をしよう。
俺は、平民……それも、貧しい農村の出だ。
欲しいものを手に入れるには成り上がるしかなかった。」
灯りがゆらゆらと影を作り、彼の声が積もるように甘い。
いつもより距離も近い。
視線が恥ずかしくて、杯を口へ運ぶ。
多分、いつも酔うのが怖くて越えなかった限界を過ぎている。
「お前の髪は、子供の頃からそんなに輝いていたのか」
「い、いいえ。ここに売られた時には白髪のようで気持ち悪いと女将さんが言っていました。洗って櫛けずり油をつけていたら、銀色に。栄養も足りていなかったのだと思います」
将軍の手が髪をすくい、頬に小指が当たる。彼のなかでは小さな存在ですら、ごつごつして戦いに慣れた手だとわかる。
「お前をここから出す」
息が、上がった。
「俺がお前をここから」
なぜ今になってこんな声で、まるで心があるかのように言うの
なぜ触れるの
閉ざしていた氷に光が当たるように
ひびが入って
雫が伝う。
「拒むな」
命令ではなく、目で乞われる。
頷くと、腕のなかに捕らわれた。
なんて強い檻だろう
人に求められることが、奥を焦がした。
たとえ一時の気まぐれでも。
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