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「何となく、清香がそんな色の物で悩んでいる気がしたものから、電話してみた」
「気がしたって……、あの、お兄ちゃん?」
戸惑いが最高潮に達した所で、清人が幾分強い口調で言い聞かせてくる。
「悪い事は言わん、サーモンピンクの方にしろ。それじゃあ邪魔したな」
「え? あ、ちょっと、お兄ちゃん!?」
言うだけ言ってあっさりと清人が通話を終わらせると、清香は半ば呆然としながら携帯電話を耳から離し、手の中のそれをまじまじと見下ろした。そんな彼女を見て、聡が怪訝な顔で声をかける。
「清香さん、兄さんがどうかしたの?」
「それが……、私が『サーモンピンクとペパーミントグリーンの物で悩んでいる気がした』と言われて……。それで『サーモンピンクにしておけ』と……」
それを聞いた聡は、辛うじていつもの口調で感想を述べた。
「……へぇ、凄い偶然だね」
「お兄ちゃんって、時々物凄く、常人離れした所が有りますから。じゃあこっちにします」
「ああ、決まって良かったよ」
一人納得して片方を選んだ清香に、聡は引き攣った笑みを向けた。
そして場所は変わり、昼の時間帯に某レストランに聡ともに赴いた清香は、再び危機に直面していた。
「さあ、好きなのを選んで良いよ? どれにする? 決められなかったら、俺が選んでも良いかな?」
「え、えっと……、一応メニューを見てみますので……」
「勿論構わないよ?」
愛想良く笑う聡の視線から顔を隠す様に、清香はメニューを開いて中を隅々まで確認し始めた。
(うぅ……、ドレスコードが必要な超高級店ではないにしろ、やっぱりそれなりのお値段……。聡さんにお任せしたら、滅茶苦茶高額コースになりそうだし、どうしよう……)
そんな風に困惑していると、バッグの中で再び携帯電話がメールの着信を伝えてきた。
「……すみません、ちょっと失礼します」
聡に断りを入れて椅子に置いておいたバッグから携帯電話を取り出した清香は、送信者の名前を見て戸惑った声を上げた。
「お兄ちゃん? ……え?」
「どうかしたの?」
そのまま黙ってディスプレイを凝視していた清香に聡が声をかけると、清香は困惑も露わな口調で答えた。
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