101人が本棚に入れています
本棚に追加
/123ページ
「それが……、聡さんの頭の上に、何か落ちる様な気がしたから電話してみたとかなんとか、縁起でもない事を言って一方的に切れまして……」
ぶつぶつ文句を言いながら清香が携帯電話をバッグにしまうと、聡は若干乾いた笑いで応じた。
「はは……、兄さんは白昼夢でも見たのかな? それとも仕事が押して寝不足とか?」
「あ、あはは……、そうかもしれませんね。今日は早く寝るように言いますね」
「そうだね」
互いに何となくぎこちない笑みを浮かべながら、庭園と庭園を繋ぐ小道の上に掛かっている陸橋の下をくぐり抜けた直後、二人の背後で何かが落下した様な異音が生じ、反射的に振り返った。
「……え?」
その視線の先には、未だクワンゴワンと微かな音を立てて震えている、両手で抱え持つ大きさの金タライが通路の上に転がっており、それを認めた清香と聡は、互いに微妙な表情を浮かべた顔を見合わせたのだった。
「……それで、その音で振り返ったら、通り過ぎた所に大きな金タライが落ちていたんです。多分一段上の所で何かイベントをやっていたみたいですから、偶々陸橋の所から、何かの弾みで落ちたと思うんだけど、凄いでしょう!?」
「………………」
嬉々としてそう訴えてきた清香にその場の全員が無言になったが、互いに顔を見合わせた結果、浩一が代表して尋ねてみた。
「清香ちゃん。何がどう凄いのか、教えて貰って良いかな?」
その問いかけに、清香が驚きを露わにしながら解説を加えた。
「え? だって! お兄ちゃんが最近もの凄く勘が良くなっているのは、私が聡さんと一緒にいる時限定なんです。だから、口では『あれ』とか『あの野郎』とか『ろくでなし』とか色々酷い事を言っていても、心の中では聡さんと血の繋がった兄弟だっていう事を、認めているんだわ!」
しかしその説明を聞いて、皆は益々清香の台詞の意味が分からなくなった。
「ごめん……、聡君を弟と認めている事と勘が良い事が、どう繋がるのか教えてくれるかな?」
浩一が申し訳なさそうに再度問い掛けると、清香は真顔で言い聞かせる様に話し出した。
最初のコメントを投稿しよう!