番外編 佐竹清人に関する考察~玲二の場合

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 その話は、数年前に遡る。    専門学校を卒業し、無事国家試験に合格して研修等も済ませた玲二は、その日、就職先での勤務初日を迎えていた。  緊張しながらも気分良く、充実した時間を過ごしていた玲二だったが、昼過ぎの時間帯になって、ワゴンの備品を補充しながら一人首を捻って呟く。 「……何か変だ」 「何がだ? 分からない事があったら、恥ずかしがらずにすぐ聞けよ?」  三十手前で店を任されている中村が、入ったばかりの新人に対して面倒見が良さそうに思われる台詞を口にすると、玲二は困惑気味に訴えた。 「店長……、実はさっきから、時々変な視線を感じる様な気がしまして……」 「おいおい、自意識過剰だな、お前。確かに見た目良い男だが、客の目を気にして仕事が出来るか。仕事に集中しろ」  今度は若干叱責のニュアンスが含まれていたが、玲二は益々困惑しながら、待合席とは反対側の、窓の外を軽く指で示しながら弁解した。 「いえ、客からの視線じゃなくて……、窓の外からなんです」 「は?」  それを聞いた中村は思わず呆けた表情で窓に顔を向けたが、壁面がガラス張りのビルの二階に入っている店舗であり、窓の向こうには通りを挟んで建っているビル群の二階以上しか、当然目に入らなかった。その事実を確認した中村が、ゆっくりと玲二に向き直る。 「……もしかしてお前、霊感とかあるタイプ?」 「今までは、そんな気は無かったと思うんですが……、目覚めたかな?」  こめかみを軽く指で擦りながら、真面目な顔で考え込んでしまった玲二に、若干顔を青ざめさせた中村の小言が投げつけられた。 「初日から変な事を言ってないで、さっさと備品を揃えろ! あ、その前に、あそこの席の周りを掃け!」 「分かりました」  そこで玲二は(どうやら店長には、ホラー系の話はタブーらしい)との情報を頭にインプットしながら、床に散乱しているカットされた髪を掃き集めにかかった。  そして翌日。 「……おかしい」 「だから何が。おかしいのはお前の方だ」  窓の方に目をやりながら眉を寄せて考え込んだ玲二に、中村が些かうんざりとした表情で問い掛けると、既に中村から前日の話を聞いていたらしい他の何人かのスタッフが、玲二達の周りに様子を見に寄って来た。 「え? どうかしたの?」 「店長から聞いたけど、また視線を感じるとか?」 「はい……」
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