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先輩に声をかけられて、何となく納得しかねる顔で頷いた玲二に、中村は勿論、他の者達も心配そうな顔を向けた。
「おい、神経過敏ってわけじゃ無いよな?」
「まだオープン前で客は居ないのに……。柏木君、派手な外見に似合わず、結構繊細なのね。大丈夫?」
「それとも就職したばかりで、まだ緊張しているのかしら?」
そんな風に、口々に気遣う声を掛けて貰った玲二は、(もう気楽な学生じゃないんだぜ? 家から出て自立の第一歩だって言うのに、一社会人として恥ずかしいだろ? しっかりしろよ!)と自分自身を叱咤しつつ、周囲に笑顔を向けて力強く告げた。
「そんなにヤワな神経をしているとは、思って無かったんですが……。別に具合が悪いとかじゃありませんので、これからは仕事に集中します。ご心配お掛けして申し訳ありませんでした」
そう言って軽く頭を下げた玲二に、他の者達も笑顔を見せる。
「よし、その意気だ。今日もビシビシこき使うからな?」
「店長酷~い! 頑張ってね?」
「苛められたらすぐお姉さん達に言うのよ?」
「おい、何だそれは?」
「でも具合が悪くなったら、すぐに言いなさいよ?」
「はい、店長、香川さん、仁木さん、高瀬さん、ありがとうございます」
そうして和やかな雰囲気になったところで、皆手際良く開店準備を再開した。しかし開店して忙しく立ち振る舞いながらも、笑顔を浮かべている玲二の中では、まだモヤモヤした気分が晴れないままだった。
(しかし、何なんだろうな……。見た目や実家のせいで、他人からジロジロ見られるのには慣れている筈なのに。しかも羨望とか嫉妬とかじゃなくて、……強いて言えば悪寒を感じる)
「それでは先に、そちらの一番手前のシャンプー台へどうぞ。髪を濡らしておきますので」
「はい」
にっこり微笑むと釣られた様に笑顔になった女性客を誘導しながら、玲二はチラッと背後のガラス窓に目を向けた。
(第一、窓の外から視線を感じるなんて有り得ないのに。逆に視線に敏感になりすぎて、烏か鳩に見られてるのが気になったりしてるのか?)
密かにそんな事を悶々と考えながらも、問題無く髪を洗い流した玲二は、次にカット席に誘導した。
「シャンプーはカットの後に致しますので。それでは一番窓側の席へどうぞ」
「分かりました」
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