番外編 佐竹清人に関する考察~玲二の場合

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 そして椅子に座った客にカット用のケープを掛けていた玲二は、窓の方に視線を向けながら、ふと笑いを噛み殺した。 (鳥相手でも、見られるならやっぱりメスの方が良いな…………って!? ちょっと待て、今のって!)  しかし次の瞬間、異常な物を認めてしまった玲二は、固まって窓の外を凝視した。そして冷や汗を流しながら、我知らず小声で呟く。 「おい、ちょっとまて。あれってまさか……」  そこで不自然に立ち尽くしている玲二に、カットに取り掛かるためやってきた中村が、怪訝そうに声をかけた。 「うん? 柏木、どうした?」 「……いえ、何でもありません」  若干引き攣った笑顔を見せながら玲二が振り向くと、中村が鷹揚に笑って頷いてみせた。 「それなら柏木、手が空いたら休憩に入れ。一段落ついたしな」 「ありがとうございます。じゃあ入らせて貰います」 「ああ、お疲れ」  玲二は軽く頭を下げて客を中村に引き継ぐと、店内をゆっくり移動して腰に付けていた商売道具を所定の位置に戻した。しかし従業員用のスペースに入ると更衣室に駆け込み、ロッカーから財布だけを取り出して、一目散に外へと駆け出す。  それから店が入っているビルの正面玄関から道路に出て、行き交う車の流れを見ながら一直線に広い道路を横断し、向かい側に建っているほぼ同規模の商業ビルに飛び込んだ。そして迷わずその二階の、道路側に入っている喫茶店を目指す。  『本日貸切の為、入店できません』の札が下がったドアを勢い良く押し開けると、カラカラン……というカウベルの音と共に、落ち着き払った男性の声がかけられた。 「お客様、申し訳ありません。今週一杯は貸切になっておりまして」 「ああ、マスター、こいつは良いんだ。向かいの美容室で働き始めた、例の義理の従弟だから。玲二、ここに座れ。マスター、水とお絞りを頼む」 「左様でございましたか。失礼しました、どうぞお入り下さい」 「……やっぱり」  窓際の席に座ってその場を仕切っている清人の姿に、片手でドアを押し開けた状態のまま、玲二は脱力して項垂れた。 「休憩に入ったんだな。お疲れ、玲二。何か食べるなら奢るぞ? 就職祝いの代わりだ」  清人が爽やかに笑いながらメニューを差し出して来たが、向かい側に座った玲二は、テーブル上の物に厳しい目を向けつつ問い質した。 「こんな所で、一体何をやってるんですか、清人さん!?」
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