【二刺し】

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 それこそ、依頼主の信念や魂を一緒に彫り込み、彼らの体に刺青という『生命』を宿すことこそが、伊織にとっての宿命であり、生き甲斐であると思っているだけに、ヤクザもんの我慢比べだとか、箔をつけたいだけだとか、そういったくだらない理由では絶対に依頼を受けることはない。  ナイフで脅されようが、暴力団の名前を出されようが、表情一つ変えることなく、頑なに拒絶してきた。  当然、目の前で土下座をされ、何度も何度も懇願されようが同じこと。  目の前の男の切羽詰まったような雰囲気からは、彼が彫りたい理由というものが馬鹿馬鹿しいものではないことぐらい、伊織にも分かってはいたものの、受けるか受けないかは、やはり話を聞いてから。  一度でも『例外』を作ってしまっては、今後の仕事に支障が出るかもしれない。  畳に額がくっつきそうなほど、頭を下げたままの男のつむじを見て、伊織は小さく息を漏らした。
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