【二刺し】

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「まぁ、顔をお上げください。私は刺青師ではありますが、少々頑固なところがありましてね。ここに来る人、全ての依頼を受け入れているわけではありません。お話を伺い、本当にその人にとって必要なのか、そうでないのか。そこを判断させて頂いた上で、必要な人の依頼のみ承っております」  柔らかで落ち着いた声を響かせると、頭を深々と下げていた男は急に上体を起こした。  口を一文字にキュッと引き締め、目には怒りとも寂しさともつかない何とも言えない深い色を湛えていた。 「でしたら、間違いなく先生は、俺の体に墨を入れることになりますよ。俺が先生に依頼する理由はただ一つ。愛した女と、一度は心を許した元仲間達への『鎮魂供養』の為ですから」  一語一句。  噛みしめるように言葉を吐きだす彼の拳は、湧き上がる感情を堪えるように、白くなるほど強く握られ、震えていた。  
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