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これは、自分に体だけでなく、命までもを預けてくれている依頼主に対し、安心してもらうための、伊織なりのさりげない心配りであった。
清水はそのことに気が付き、口には出さないものの、彼の思いやりある態度に感謝した。
「さて。始めましょうか。初めは痛いかもしれません。歯を食いしばり過ぎて歯茎を傷めてはいけませんので、これを……」
そう言って手渡されたのは真っ白なタオル。
意味が分からず清水は伊織の顔を見つめると、「タオルを噛みしめて痛みに耐えてください。その方が楽ですから」と、にっこりと微笑んだ。
これから依頼人を痛みへと誘う人間の笑顔というのは恐ろしいもので。
一瞬だけ、清水は伊織に対して、こういう人間をドSっていうんだろうなぁと、背筋に寒いものを感じた。
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