【四刺し】

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「はじめます」  聴覚から伝わる刺激が清水の脳へと伝わり、「今から痛みがくる!」と身構える前にノミを突き刺す。  注射の針が刺さるような痛みが走ったかと思うと、次から次へと押し寄せる切れ味の鈍いカッターやシャーペンの先でガリガリと強く引っ掻かれているような不快な痛み。  我慢出来ないものではないどころか、想像していたものより遥かに軽い痛みに拍子抜けするほどだ。  それよりも、鼓膜を震わせるというよりも、皮膚の内側から聞こえるチッチッチッという軽妙な音が、心地がいいんだか悪いんだか分からない奇妙な感覚を与えてくる。 1秒間に3~4回という一定のリズム。  突いて、上げて、抜く。  突いて、上げて、抜く。  単純作業ではあるが、同じところを何度も突くことなく、それでいて、僅かな隙間なく下書きに沿ってスムーズに動かしていく。
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