【一刺し】

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 片手に握りしめた新聞に再び目をやると、『額の真ん中を撃たれたような跡と、その他、複数の奇妙な傷等があり……』という文章が目に入ってきた。 『撃たれたような……』『複数の奇妙な傷……』その言葉が頭の中でグルグルと回転し、目が回るかのような気持ち悪さに襲われ、伊織はその場に蹲った。  その背に圧し掛かかるズシリとした重み。  胸が押しつぶされ、息も吸えない程の苦しさの原因は分かっている。    伊織が、自分の『作品』によって引き起こされた過去の出来事を思い出しながら、これからこの身に起こるであろう事を想像すれば痛みと重みが増す。  誰も居ない筈のこの部屋で冷たく射抜くような視線を感じ、ゾクリと身震いをすると、激しい耳鳴りと共に目がグルグルと回り出し、辺りの景色が一変した。  伊織の意識は、その瞬間に自分の欲によって燃え散った男のものと混ざり合い同化し、そのまま今は亡き『彼』が最期の念を振り絞って残した、走馬灯の中へと流れ込んで行った。
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