339人が本棚に入れています
本棚に追加
/432ページ
東の空に乳白色が混じり、夜の闇を徐々に溶かしつつある静かな朝。
時節は秋とはいえ、まだまだ残暑厳しい九月。
じっとりと汗をかき、寝苦しい夜を過ごしていたせいで、浅い眠りを繰り返していた伊織の耳に、激しく玄関の扉を叩く音が届いた。
刷ガラスがはめ込まれた引き戸が乱暴に扱われてはガラスが割れるどころか、扉自体が壊されてしまう。
睡眠不足と暑さによる体のだるさを忘れて、慌てて布団から飛び起き玄関へと急ぐ。
(こんな朝っぱらから、一体誰だ?)
「今開けますから。乱暴にしないでください」
廊下の電気をつけても、鍵のかかった引き戸を無理矢理開けようとして戸口をガタガタと鳴らす人に対して声をかけた。
最初のコメントを投稿しよう!