第15章 犬が見てる

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わたしは後藤くんに目で訴えた。こいつ引き取ってよ、後藤くん。彼も目だけで返してくる。…絶対やだね。 「嘉文、メイクは舞台美術担当より衣裳とか俳優、女優の誰と組むかが重要だろ。自分の人脈があるだろうから、そっちと組めばいいんじゃないか?」 それでも助け舟を出してくれる後藤くん。奴はぶんむくれた。百回言ってるが、特に可愛くはない。 「えっ、そんなの関係ないよ。俺の腕があれば何処に行っても大丈夫だし。誰と組むかより、ちゆの近くかどうかのが重要だろ!」 「…こいつ、いつか振られて痛い目見るといいな」 後藤くんが聴こえるか聴こえないかの声で小さく呟くのがかろうじて耳に届いた。 「うーん…」 わたしは腕組みして唸った。家庭教師を引き受けはしたものの、何から手をつけていいのやら…。 とりあえずタクの去年の通知票を見せてもらう。…なんだ。 「結構、成績はいいみたいじゃん」 「でしょ?」 得意げに胸を張るタク。まぁそうだよね、親御さんもタクが出来るからじゃあ受験を、って思考回路になるんだろうし。そう考えると割に楽なバイトか。いやしかし。 「…この成績で落ちたら家庭教師のせいだよね、絶対…」 そう考えるとむしろプレッシャーが。 「ちゆちゃん、大丈夫だよ」 大人びた態度でぽんぽんと肩を叩いてくれるタク。 「要は俺が頑張っていい学校に受かればいいんでしょ?そしたらちゆちゃんの教え方がよかったって話になるもんね。平気平気、『おーぶね』に乗ったつもりでいてよ」 「そういう言葉ちゃんと知ってるんだね」 わたしはため息をついた。何て頼り甲斐のある生徒だ。 どの辺の中学をターゲットにするのか、現時点ではあまりにも漠然としているので、とりあえずはこれからの予習復習と、四年生までの学習内容の中での苦手項目の洗い出しを始めることにした。 「そう言えばさ。今度ちゆちゃんのケータイ番号教えてよ」 何だ、ナンパか。 「雑談は休憩の時にね。この時間もわたしお給料もらうわけだからさ。…タク、携帯なんか持ってないじゃん」 そう言いつつドリルに丸つけしながらつい雑談に乗るわたし。タクは嬉しそうに身を乗り出した。 「今度誕生日なんだ。お父さんに買ってもらうんだよ、初めてのケータイ。瀬戸さんもさ、じーぴーえすとかいちじょうほうきのーがある奴ならいんじゃないかって。俺、うっかり学校からそのまま友達んち遊びに行っちゃうこととかあるから」
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