第15章 犬が見てる

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舌を出してみせるタク。わたしは頷いた。 「ああ、そう言えばあったねぇそんなこと。大騒ぎになったじゃん」 「うん、めちゃ怒られた。あれから気をつけてはいるよ。でも、一応居場所がわかった方がやっぱり安心だからって」 「へえー。…こんな場所でも位置情報検索できるの?アンテナ少なそう」 丸つけの終わったドリルをさし戻し、直す箇所を指示。やっぱ図形の応用問題はちと難しいな…。 「あんまし山の方行っちゃうとダメだけど。町ん中なら結構大丈夫だよ。みんな割と友達も持ってるよ、キッズケータイ」 「ふぅん。…小学校なんて携帯禁止が普通だとばっかり」 タクは大人びた顔で肩を竦めた。 「都会の学校は割とそうみたい。田舎の方が、ぼーはん目的とかで持たされてる奴多いよ。学校は持ってっていいとは言われないけど、駄目とも言われてない。だから持ってる子は持ってるよ」 「ああ、黙認みたいな状態かあ…」 わたしは唸るように呟いた。確かにこういう町の方が人目が切れる場所も多いし、親御さんは不安だよね。 「だからさ。ケータイあったらこれからちゆちゃんともメールできるよ、俺。今までは瀬戸さんにメール頼んでたけど」 ああ、そこは微妙な話だな。わたしは内心を気取られないように表情に気を配った。 「メールなんだ。LINEとかは?小学生はまだ駄目か」 「アプリは使えない奴だもん。スマホじゃないよ、基本電話専用の。登録してる電話番号とだけしょーとめーるができるんだよ」 なるほど。 「いろいろあるんだな。…おい、ところでこれ。ちゃんと集中して。どしてここ間違えたか、自分でわかる?」 「うーん…?」 知り合い同士というか、むしろ友達関係に近いので、切り替えが大変だ。こんなんで大丈夫かな。と思いつつ、何とか休憩まで漕ぎ着けた。…はあ。次は国語か。 「そっか、タクは誕生日そろそろなんだ」 おやつのスナック菓子をばりばり齧りながら彼は元気よく頷いた。 「来月だけどね。六月二十三日」 「あたしも六月なんだよ。一緒だね」 「え、そうなの?なんにち?」 タクが何だか嬉しそうにぱたぱたする。 「十一日。…せっかくだから一緒にお祝いしよか」 「わあ、いいじゃん!ラッキー」 「じゃがりこ撒き散らすなよ」 ぶつぶつ文句言って拾い上げながらもあまりのはしゃぎように思わず顔が綻ぶ。もうまるっきり仔犬だ。
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