第15章 犬が見てる

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「やった、俺めっちゃ来月楽しみ。誕生日もだけど、それが終わったら移動教室もあるんだ。そっちは七月なんだけど。泊まりの行事って俺初めてだからさ、ちゆちゃん、一緒に準備手伝ってよ。瀬戸さん意外と細かいとこうっかりなんだよ」 「まあ、男の人はね」 ちょっとそんな情報も微笑ましい。そっか、あんなに大人でしっかりして見えるのに。小学五年生にうっかりと看破されるようなとこもあるんだな。可愛いじゃないですか。 「でも、こんなとこにある学校も移動教室やるんだ…、毎日が移動教室みたいなもんだと思うけど」 うっかり呟くわたし。タクがむっと膨れた。 「え、それはここが田舎だってこと?」 「いやいや…、環境がいいってことだよ。わたしとか、神奈川だったけど、まさにこういうとこ来た覚えあるなぁ。わざわざ向こうから来たくなるようなとこに住んでるんだから、贅沢っちゃ贅沢だよね」 「まあものは言いようだね」 やけに大人っぽい口調で返してくるタク。五年生ともなるとだんだん口が一丁前になってきてる気がする。 「でも、山の子は山の子で行くとこがちゃんとあるんだよ。何てったって海行くに決まってるじゃん、とーぜん」 「…ああ、臨海学校か!」 わたしは大きく頷いた。そうだよね、北関東の海なし県だもんな。 「学校でも海全然行ったことない奴とかいるよ。…俺もさ、実はちょー子どもの時以来行ってないんだ。だからちょっと楽しみ、だなあと思ってさ…」 あんまりはしゃいでるのが恥ずかしくなったのか、誤魔化すように語尾が小さくなった。 「あたしもずっと海なんて行けてないや。そりゃ楽しみだよね。どんなだったか帰ってきたら教えてよ」 気持ちを引き立てるように声を弾ませると、タクは平静を装いながらも頬を紅潮させて胸を張った。 「しょうがないなぁ。ちゆちゃんも本当は行きたいんだろうけど。あれは学校の行事だから。何かお土産持って帰ってくるから、楽しみにしててよ。二泊三日もあるんだ。夜眠れないかも、絶対友達とめっちゃ遊んじゃうよ」 「駄目だよ、夜は寝な。先生方大変だよ…」 苦笑しながら、不意にとんでもない思いが自分の中に沸き立つ。 …二泊三日。 タクがいない夜。 …わたしは、まさにその時。どっちにいることになるんだろう…? 「…ちゆ…」 「あっ、あぁ…、そんなの。…駄目…」 身体の敏感な部分がどうしようもなく震えちゃう。…ああ、もう。こんなの。
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