第15章 犬が見てる

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顔が見えないとやっぱり変な妄想がかき立てられる。でもそれだけじゃない。そもそも今までは、竹田としてる時に他の人のことなんか絶対考えたりしなかったのに。 例えそれが瀬戸さんのことでも。 「…ちゆ、めっちゃよかった」 奴がうっとりと頬を摺り寄せてくる。わたしはため息をつき、その髪に指を入れてくしゃくしゃとかき混ぜる。 「…あたしも」 何だか疚しい。こいつの腕の中で他の人の顔を思い浮かべてる自分。竹田に対して恋愛感情がなくたって、今までそこはちゃんと弁えていられたのに。 どうしてこんな風に決壊しちゃったんだろう。 「今日、激しかったな。すっごい腰も中も動いてたし、濡れてたよ」 「えっちなこと言わないでよ」 言いながらまた変な気を起こしたのか、ぐいぐいと身体を押しつけてくる。今終わったばっかりじゃん。少しは休めばいいのに。 わたしの理性もあんまり保たないよ…。 「…ちゆ…、好きだよ。…すき」 唇を重ね、仰向けにされて再び覆い被さられて乳首を強く吸われ、喘ぐ。あんまりそんな風に言われると。疚しさが加速する。 あの、タクの移動教室の話以来。たまにこんな風にセックスの最中に瀬戸さんの顔が浮かんでしまうようになった。今までは瀬戸さんへの気持ちの自覚はあったけど、あの人をセックスと絡めて考えることなんか全然なかったのに。だからこそ平気な顔でそばにいられたのに。 …あの、フラッシュバックの時以外は。 フラッシュバックと言っておいて実際には催淫剤そのものの作用だったわけだけど。だからこそあんなことはもう起こらないって自信を持って落ち着いていられた。まさか移動教室の話が催淫剤と同じ効果を持つとは。 何考えてんだろ、わたし。 竹田の指がわたしをかきたてるように敏感な場所を這い回る。わたしの欲情を見守るようにじっと顔を見つめながら。喘ぎ、呼吸を弾ませながら興奮に霞み始めた目を奴の顔に向けた。さっきと違ってちゃんと顔が見える。だから大丈夫。…多分。 これは嘉文。あたしの大事な可愛い大型犬。大切なセックスパートナー。 あたしには世界で一人、こいつの身体だけ…。 「…嘉文。…お願い」 わたしは身体を弾ませ、激しく喘ぎながら彼の身体を強く引き寄せた。 「挿れて。…あたしに…」 「…小川さん。どうですか?いくら何でも辛すぎた?」 わたしははっと我に返った。しまった、ぼんやりし過ぎたかな。
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