第15章 犬が見てる

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何か不審に思われたかもしれない。 「そんなことないです。…美味しい、です」 「無理しないでいいですよ。辛いもの平気って言ったって、程度は人それぞれですよね」 結局、ここでこうしてるわたし。…悩んでる間に時間はあっというまに経過して、今日はタクの移動教室初日だ。 仕方ない、もともと水曜日はこっちの家に泊まる日だもん。敢えてそこを大学の方に泊まります、なんて言ったらさ。まるで瀬戸さんをそういう風に疑ってるみたいじゃん。 わたしたちは何でもないんだから、いつも通りに振る舞えばいい。それに別に二人きりじゃない。…モップもいるし。 まるでわたしの心の内がわかるようにそのタイミングでうぉん、と足許で声がしてびくっとなる。そう、モップが見てる。…変な真似はできないよ…。 どんなに言い訳しても疚しい。何の気なしに、今日は下の家の日だから、と手を振るわたしに 「うん、気をつけて。…また明日な」 と優しく口づけた竹田のことが頭をよぎる。でももう引き返せない。 そんな風にどこか思いつめたわたしとは裏腹に瀬戸さんは超自然だ。 「今日はせっかくタクがいないんだから、普段作れないメニューにしましょう。小川さん、辛いものは駄目な方ですか?」 浮き浮きとした口調で言われ、むしろ戸惑う。タクが不在なことをこんなあっさり処理されるとは。 「えと、普通です」 「麻婆豆腐とかは嫌いですか?いつもはタクの口に合わせて辛味をほとんど入れないバージョンしか作らないんですが。僕は実は割に辛いのが好きなので、正直物足りないんです。日頃抑えてるのを解放して、本気の辛いのを久しぶりに作ろうかなぁと…。でも、小川さんが無理なら」 「いえ、平気です平気です」 わたしは前のめりに賛成する。 「食べてみたいです。…本気の辛い麻婆豆腐」 瀬戸さんの大好物。 「よし、じゃあ腕を振るいます。…あ、今日は小川さんはお客様でいて下さい。久々だなあ、ちゃんとした中華。子どもの舌に合わせないやつ」 そしてずらっと品数が並ぶテーブル。…瀬戸さん、本当に料理の腕がいいんだから。 「辛すぎでしたら、こっちの青椒肉絲や水餃子もどうぞ。これは辛くないですよ」 「大丈夫、麻婆豆腐も美味しいです。…あんまり一気には食べられないけど」 さすがに涙目ではふはふせざるを得ない。 「こういうの、久しぶりに食べました」 「今の若い方は辛いの苦手な人が多いですからね」
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