第15章 犬が見てる

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やや遅れて始まった三年生の新学期は、しばらくの間慌ただしく過ぎた。 履修登録、各種手続きなど、他の同級生はとっくに済ませてる事務手続きに追われ、気がつけばあっという間にもう五月だ。次の九月の公演はどうしようか、誰と組む?というざわつきも去年に比べると本気度が高い。もうとっくに動き出してるグループも結構ある。 「ちゆはまた立山くんと一緒?」 やっと落ち着いて授業を受けられるようになったわたしと並んで廊下を歩きつつ、板橋がのんびりした口調で尋ねてくる。 「またって、がっつり組んだのは一回だけじゃん。こないだの三月のは向こうは客演だし。この時期また忙しくなってるみたいだから、今度の九月も出ずっぱりは難しいかなって言ってたよ。だからあたしはあたしで動くけど、普通に」 今のところ二人の間で約束してるのは、四年の卒業公演は絶対に組もうってこと。各々就職活動などもあるので、四年生は前期はステージ活動はなく、年明けに集大成の卒業公演をする。それに向けてスケジュールを調整していくから、そこだけは付き合えと今から言われている。 板橋は歩きながら腕を組んで口を曲げた。 「ふん。じゃあ、今度は久々にあんたが舞台美術監督やる?あたしはまた大道具に回ろうかな」 「うーん…」 わたしは曖昧に呻いて天井を仰いだ。あれってやっぱ大変なんだよね。 「あたしも大道具がいいなぁ…」 「何言ってんだ、今度はあんたの番だろ。あたし三月にやったばっかだよ。少しは休ませてよ。マジで疲れた、あれ」 「身体動かすのは構わないんだけど、脳味噌使うのは辛いんだよな…」 ぶつぶつ零す脳味噌が筋肉化しつつあるわたしたち。残念ながらこういうとこが似た者同士である。 まあ気心が知れてるので、多分この調子で次もセットで組むことになりそうだ。他人にはいろんな人と組んだ方がいいと言いつつ、自分はつい。やっぱり効率がいいんだよね。 そうすると、せめて演出とか脚本担当はいつもと違う人と組むか…、後藤くんとも気心が知れてるからつい組んじゃうんだけどね。 「まあ誘いは既に幾つか来てるから。ちょっと早めに検討してみてよ。断る場合向こうも次があるだろうからさ」 「おっけー」 ああ、それなりに多忙かつ平和な毎日が帰ってきたなぁ。少し憂鬱なような、ちょっとは楽しみで心が湧き立つような。 学校は学校でこの日常も悪くない。でもそれより何より。
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