第15章 犬が見てる

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次の日、学校でもわたしはやや心あらず、といった様子で過ごしていた。 思うに何にそんなに衝撃を受けたかって言えば。ぼんやりと学食で列に並びながら考える。多分、この毎日に終わりがあるってことを否応なく突きつけられたからだろう。 タクと瀬戸さんはこれからもずっとあの家にいてくれると何となく思っていた。でも、そんなわけない。タクだって成長するし、いつかはあの場所を出て行くだろう。もともとこの土地に生まれたわけじゃないなら尚更だ。離婚したご両親のどちらかの家に行くことになるのも彼のためには悪いことじゃない。 わたしがあの二人にずっとあそこにいて欲しいと思うのはただのエゴってもんだろう。 それに、とため息を小さくつく。思えばわたしだってずっとここにいるわけじゃない。あと二年弱すれば絶対にここを出て行くことになる。この地元に就職先なんかあるわけない。わたしたちが志望してる職種を考えたら尚更。 わたしだってきっと東京かどこかの大都市圏に行くことになるだろう。それは自然な流れで仕方のないことなんだ。 …でも、今までは。漠然とだけど、卒業しても機会があればここに二人に会いに来られるって思ってた。わたしが何処にいて何をしてても、タクと瀬戸さん(とモップ)はいつもここにいて、いつでもわたしを優しく迎えてくれるって…。 わたしは首を横に振った。そんなわけない。彼らにだって自分の人生がある。わたしを待って、受け入れるために生きてるんじゃないもの。 それでもまあ、タクにはきっと会えるだろう。お互い東京にいれば尚更、時々会いに行ってその成長振りを見せてもらうこともできるかも。思春期の彼がおばさんと会うのを嫌がるようになるまでは。でも。 …タクがあの家からいなくなったら。わたしはもう、瀬戸さんに会いに行く名目がない。 そう、わたしが本心で恐れてたのはそれなんだ。今までだってタクがいるから、タクの面倒を見てその世話をして、という大義名分があるからあの家にいられた。彼がいなくなって一人になった瀬戸さんに、わたしは何て言って会いに行けばいい?「会いたかったから」? …そんなことはやっぱり言えない…。 「小川さん」 「ひっ」 あまりに自分の考えに没頭していたので、唐突にかけられた声に変な反応をしてしまった。慌てて振り向くと後藤くんがかなり妙な表情でこっちを見ていた。
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