第15章 犬が見てる

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「わかった、はいはい。見ますよ」 まあ食べ終わったことだし。落ち着いたところで、とようやくポケットから携帯を取り出す。画面に視線を走らせるより早く、 「…ちゆ!」 背後からがばっと。…大型愛玩犬が。 …息止まるかと思った…。 「何だ、もう飯食っちゃったの?ずっと探してたのに。お前は腹が減ると堪え性がないなぁ。いいよ別に、我慢できなかったんだろ」 一人で勝手に納得してる。と思ったら、 「俺も何か取ってくるから。ここで待ってて」 言うなりがっとわたしを仰向かせ、がっつり唇を重ねた。軽く触れるだけとかの可愛いもんじゃない、口を開く本気のやつだ。 じゃ、と言って奴が機嫌よく去っていくと、ようやく口を開いた後藤くんが呻いた。 「…前言撤回。嘉文なんか呪われろ。踏みつけにしてやって構わないよ、小川さん」 わたしはちょっと笑った。 「ね、幸せそうでしょ?」 でもまあ、それがあいつの一番いいところでもあるんだけどね。幸福そうな満ち足りた奴といると、わたしも救われる気分になる。 多分それが、結局わたしたちがずっと続いてる理由なんだろうな。 完全に毒気を抜かれた顔で後藤くんは自分のトレイを横にやった。 「…まぁいいや、あいつのことは。ところで小川さん、今度の九月の舞台なんだけどさ。俺の脚本専攻での知り合いの奴が、小川さんと是非組ませてくれって言ってるんだけど。俺もいつも小川さんと組ませてもらって助かってるけど、あんまり独占してると他の連中にも申し訳ないしさ。今度、紹介させてもらうのはどうかな」 「ああ、いいですよ。是非」 以前のグループの演目を教えてもらい、何となく見当をつける。 「それで俺は板橋を貰おうかと思ったんだけど。あいつ、やっぱり小川さんと今度も組みたいみたいで。こっち来れば舞台美術総監督だってのに、欲ってもんがないんだよな」 ぶつぶつ文句を言うが、まあまさにそこが逃げのポイントなのかも。今回は休ませてよ、と泣きが入ってたし。 「じゃあ、岩見沢くんか木場くんはどう?いっつもサブに回ってもらってるから、ちょっとチャンスあげてよ、いい機会だし」 「うん、声かけてみる」 と話が落ち着いたところででかいわんこが自分のご飯を持って帰ってきた。首をぐいと突っ込んでくる。 「何なに、今度の公演の相談?今度こそ俺、またちゆのグループに入りたい。一緒にやろうよ、ちゆ」
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