叔母の薫陶~真澄、三歳の春~

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 あるうららかな春の日の午後。真澄は大好きな祖母の膝の上に座ってお気に入りの絵本を読んでいて、凄くご機嫌な状態だった。 「……それで、おうじさまとおひめさまは、すえながく、しあわせにくらしました。……うふふ、よかったねぇ。おばあさま」  絵本を最後まで読み終え、体ごと捻る様にして自分を見上げてきた孫娘の笑顔に、澄江も自然に顔を綻ばせた。 「それは良かったわね。本当に真澄は、その絵本が好きなのね」 「うん! だってこのおうじさま、とってもかっこいいんだもん!」  そう言った真澄は頭のツインテールを揺らしつつ、澄江の膝から畳へと滑り降りた。そして絵本を胸に抱えながら反転し、澄江と向かい合う形でちょこんと正座する。 「ねえねえ、おばあさま。きいてもいい?」 「あら、真澄は何を聞きたいのかしら?」 「あのね? ますみのところにも、おうじさまきてくれるかな?」  キラキラと瞳を輝かせ、期待に胸を膨らませている孫娘を心の底から可愛いと思い、望む答えを返してあげようと澄江が口を開きかけたが、その時予期せぬ人物がその場に乱入してきた。 「真澄ちゃん、王子様なんて、幾ら待っても来るわけ無いわよ。そんな事本気で言ってたら、あっという間に嫁き遅れよ?」 「……かすみおばさま、ほんとう?」 「香澄! あなた子供に向かって、なんて事を言うの!?」  突然現れた叔母の言葉に真澄は一気に不安そうな顔付きになり、澄江は怒りを露わにしたが、香澄は平然と言い放った。 「真澄ちゃん、『おばさま』じゃなくて『かすみちゃん』って呼ぶのよ? お母様、現実を直視させるのは、早いに越した事は無いわ」 「あなたって子は……。真澄が可哀想だとは思わないの?」 「後で泣きをみるより良いでしょ?」  顔を引き攣らせた澄江を半ば無視し、香澄は涙目で自分を見上げてくる姪の前に座って、大真面目に言い聞かせた。
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