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「清人? そうすると軽く一年半は飲めなくなるわよ? お友達とかから『一緒に飲みに行こう』って誘われたらどうするの?」
「勿論断る」
「じゃあ断れない筋からとかは? 例えば……、太刀洗会長とか」
真澄が清人と付き合いのある老人の名前を口にした瞬間、先程とは打って変わった様に顔を強ばらせた清人だったが、何とか声を絞り出した。
「……それは何とかする。酒を飲む代わりに、下僕でも何でもやってやろうじゃないか」
「下僕って……、あのね」
完全に開き直った感の清人の言葉に、真澄は心底呆れてしまったが、ここで重大な事を思い出した。
「それじゃあ披露宴の時はどうするの? 周囲からお酒を勧められても私は飲めないから、清人が引き受けてくれないと困るんだけど」
「それは……」
完全に進退窮まったらしく言葉を失っている清人の顔を見て、少し虐めすぎたかと反省した真澄は、小さく笑いながら夫を宥めた。
「大丈夫よ。もう怒ってないから。少し位なら飲んでも構わないんじゃないかと思うけど、そこまで言うなら一切飲まないわ。でも清人は披露宴の時は大っぴらに飲んで構わないわよ? 勿論私が居ない所でだったら、いつ飲んでも構わないし」
そう言って涙を拭きつつ笑顔を見せると、清人が救われた様に表情を緩めた。
「分かった。勿論披露宴の時は、全面的に俺が引き受けるから。それに他でも極力飲まない事にする。その方が禁酒を終えた時、余計に美味いだろうからな」
「ええ、そうね」
そうして取り敢えず場が和んだ所で、如何にも安堵した様にギャルソンが声をかけてきた。
「お客様、それではこちらのワインの代わりにノンアルコールワインかソフトドリンクでもお持ちしましょうか?」
「ああ、お願いします。適当に見繕って来て下さい」
「畏まりました。少々お待ち下さい」
互いに安堵した表情でやり取りをして清人は自分の席に戻り、ギャルソンはワインを下げて行った。
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