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「なんだ、そんな事か。安心しろ、真澄。あいつへの礼なら、もう考えている。新年度前にも手配する予定だ」
「そうだったの? それなら良かったわ。因みにどんなお礼をするつもりなの?」
「愛する弟の、より一層の成長を願って、盛大に愛の鞭をくれてやるつもりだ。涙を流して俺の深い愛に感激する事確実だな」
(聡君、涙を流して清人の弟である事を後悔する事になりそうね……。ご愁傷様)
薄笑いを浮かべながら断言した清人を窘める事はせず、真澄は多少困った様に笑っただけだった。そして、別の人物についての話を続ける。
「後は……、叔母様は本当に慧眼の持ち主だったなと思ってね」
「香澄さんがどうした?」
クスクスと、如何にも楽しそうに笑いながら真澄が口にした内容に、清人は本気で首を捻った。それを見ながら真澄が説明を加える。
「実はね、私、幼稚園の頃に『いつか王子様に迎えに来て貰いたい』と言う類の事を言ったら、叔母様に言われた事があるの」
「何て言われたんだ?」
不思議そうに問われた真澄は、当時を思い返しながら真顔で告げた。
「えっと……、確か『巷には似非お姫様がうようよしてて、王子様は寄ってたかって食われてるから、大人しく待ってても誰も迎えに来ない』とか、『本当に良い男は自分から捕まえに行かないといけないと駄目だ』とか、『いざとなったら王子様の一人や二人、私が引き摺ってきてあげる』とか言ってたわ」
「……香澄さん、そんな小さな子供に、幾ら何でも身も蓋も無い事を」
破天荒な継母の事はある程度知っていたつもりの清人だったが、真澄の話を聞いて本気で頭を抱えた。それを面白そうに見ながら、真澄が尚も話を続ける。
「だから叔母様に言われた通りだったでしょう? 王子様がなかなか迎えに来てくれなかったのも、自分から捕まえに行かなくちゃいけなかったのも」
「真澄……、頼むから俺をこれ以上苛めないでくれ」
思わず情けない声で清人が呻いた為、何か含む様な視線から一転して、真澄は楽しそうに笑った。
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