色を失う

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 年下の隣人に対する申し訳なさを噛み締めていると、突然、佐藤さんが言いました。 「ジャケットの肩のところ、黒ずんでいますけどどうしたんです?」  え、と思って肩に手をやると、べっとりと何かが手のひらに付着しました。  水より粘度のある、インクのような感触の、何だか嫌な臭いの……。 「これ……血じゃないですか!」  佐藤さんの叫びに、私はその汚れが赤いことを知りました。  血?  何故、私の肩にそんなものが?  そこで思い出しました。  家を出る際、隣人の佑島さんとぶつかり、肩を掴まれたことを。  彼はひどく焦り、ひどく怯え、急いでいました。真面目で良識ある人物だと(勝手に)思っていたのに、信号無視までして……。  まるで、何かから逃げるように。  ふいにサイレンの音が聞こえました。救急車です。私のマンションに向かっています。
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