色を失う

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「大丈夫ですか?」  問うてくる声の主を見て、私は再び驚き、苦々しく思いました。  左隣に住んでいる若者ーー佐藤さんだったのです。 「怪我は?」  佐藤さんは、落とした私のバッグを拾い上げ、汚れを払って渡してきました。  ……おや?  その振る舞いに私は違和感を覚え、彼をまじまじと見つめました。  金髪(私には白に見えましたが、おそらく)を逆立てて、耳や鼻や唇にピアスを開け、派手でだらしない服装。  三年前とほとんど変わらない出で立ちでしたが、今の彼の口調と振る舞いが、とても丁寧だったことに驚いたのです。  彼は人懐っこい笑みを浮かべ、 「真中さん。よければ、一緒に渡りましょう」  と、心配りをしてくれました。  あれ以来、ロクに挨拶もしたことない私の名前を覚えていたこと、また彼の思いがけない態度に、私は目を丸くするばかりでした。
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