色を失う

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 駅まで行く道すがら、佐藤さんと私は、天気や時候を端に他愛ない会話を始めました。 「佐藤さん、お仕事は何を?」 「ライブハウスの経営です。ロックやヴィジュアル系のバンドが主なので、もういい年なのにこんな服装をしていまして」  ははは、と佐藤さんは笑いました。彼の眦にできたシワに、年月の経過を感じさせます。  しかしその分、彼の持つ雰囲気には、丸さーー穏やかさがありました。三年前には無いものでした。 「実は、……真中さんには、ずっと謝りたくて」  佐藤さんは言い淀むように、三年前ーー私が引っ越しの挨拶をした際の非礼を詫びました。  ひどく沈痛な面持ちで、恥じ入るように、 「あの頃は仕事がうまくいかず、徹夜続きで追い詰められていて……つい、あんなひどい態度をとってしまいました。本当に申し訳ありません」  深々と頭を下げて、真剣に謝罪する佐藤さんに、私はしばしの沈黙をおいて、ゆっくり頭(かぶり)を振りました。 「いいえ。もう昔のことですから」  どうかお気になさらず。  その言葉は、私の本心でした。
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