色を失う

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 また、佐藤さんは、別の心配もしていました。仕事が不規則なせいで生活が乱れており、夜中に風呂に入るなどの生活音で私に迷惑がかかってないだろうか、と。  大丈夫です、と返しましたが、実は少しだけ嘘でした。しかしマンションの壁の薄さは今更なのです。  佐藤さんは、安堵したように笑いました。 「乱れた生活、というのは気になりますね。余計なお世話かもしれませんが、もっとご自身を労ってください」 「肝に命じます。……ですが、仕事が楽しくてつい無茶をしてしまいまして。若いヤツらに思いっきり音楽を演れる場所を提供するのが、僕の夢だったんです」  佐藤さんの仕事に対する真摯さと、その生気あふれる瞳を見ているうちに、私の彼への苦手意識は氷解しました。いとも容易く。  そもそも、ほとんど関わりが無かったのに、どうして彼をそんな風に思っていたのでしょう。  やはり第一印象と、この見た目で『この佐藤という若者は無礼で、軽薄だ』と先入観を抱いていたのでしょう。  あのマンションに住むようになってから三年。  その間に、私が目を患ったように、佐藤さんもそれまでの彼を一変させる出来事が起こりーーあるいは積み重なり、今ここにいる、『親切で謹厚な佐藤さん』になったのでしょう。  よくも悪くも、人は変わるのです。 (……私は、目を患う前から、色の入った眼鏡をかけていたのかもしれない)  そう思いました。
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