第10章 応酬

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「あぁら……、どこかで見覚えがあるかと思ったら、アルティナじゃないの。こんな所で早々に休んでいるなんて、良いご身分だこと。婚家では随分と、好き勝手にさせて頂いているみたいね。公爵家とは違って、伯爵家だと家風が格段に気楽そうで羨ましいわ」 「ずっと領地に引き籠もっていて、滅多に顔を合わせる機会が無かったのにあっさり嫁いでしまって、私達は随分心配していたのよ? 今夜は出席するでしょうから、真っ先に私達に挨拶しに来てくれるだろうと思っていたのに」 「そうですわね、お姉様。アルティンが亡くなって早々に、あなたまで屋敷からいなくなってしまうなんて。普通だったらありえないわ。周りの皆様も、かなり驚いておられたし」  一見気遣う様な声音で、アルティナを心配して次々声をかけてきた様に感じるものの、底意地が悪い笑顔を浮かべつつ、言っている内容は「格下の伯爵家風情に嫁いだ癖に、自分達に挨拶もしないとは何事だ」と因縁を付けているに等しい為、最近では滅多に顔を合わせる事が無かった姉達に向かって、アルティナは内心で闘争心を掻き立てられた。 (やっぱり出てきたわね、陰険姉貴達。ここで絡んでくる事位、予想済みよ。しかもギスギスババアのお仲間を連れて来て、どれだけいびり倒そうと思っているんだか。六対一なんだから、遠慮なんか必要ないわよね!?)  一番目と二番目、更に五番目の姉の背後で、気難しい顔の年配の女性が三人、冷え切った表情を自分に向けているのを見て取ったアルティナは、素早く頭の中で対処法を検討し、すぐさま実行に移した。 「まあ、セレーネ姉様にエリシア姉様にベルーナ姉様まで!! 本当にお久しぶりです! お会いしたかったですわ!」 「え?」 「アルティナ?」 「あなた一体何を……」  盛大に言い返してくるかと思っていた末妹が、いきなり立ち上がったかと思ったら満面の笑みで喜びの声を上げた為、姉達は完全に面食らった。それは背後に控えている女性達も同様で、困惑した様に互いの顔を見合わせる。 (ケインが言ってたけど、確かタイラスは騎士団の赤騎士隊に配属早々、国境巡視の一団に入れられて揉まれている最中だったわよね)  そんな嫌味のネタを思い返しつつ、アルティナはその場の微妙な空気など全く気にせずに長姉に詰め寄り、その両手を握りしめながら、如何にも嬉しそうに言葉を継いだ。
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