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上級女官就任が決まってから、何かと忙しく日々を過ごしていたアルティナだったが、いよいよ王宮入りする三日前に、屋敷で複数の客人を出迎える事となった。
「皆様ようこそ、お待ちしておりました」
「アルティナ様、本日はお招き頂き、ありがとうございます」
部屋で待機していた彼女が、執事に呼ばれて玄関ホールに出向くと、ケインの他に六人の男女が顔を揃えていたのを認めて、笑顔で歩み寄った。しかし落ち着き払って挨拶を返したのはナスリーンのみで、他の者は一斉に戸惑った表情で、ぼそぼそと呟く。
「は、はぁ……」
「どうも……」
「本日はお招きに預かりまして……」
「いえ、こちらこそ皆様の都合も確認せずに、急にご招待した形になって、申し訳ありません。ケインが『仮にも近衛騎士団勤務になるのだから、予め各隊長にご挨拶も兼ねて、アルティナを紹介する席を設けなければ』などと言い出しまして」
恐縮気味に頭を下げたアルティナだったが、戸惑いながらも近衛騎士団団長のバイゼルが、一同を代表して発言した。
「今日は偶々、皆が本部に顔を揃えていた上に、全員夜に用事も無かったので、ご心配なく」
「それなら良かったですわ」
そこでナスリーンが進み出て、アルティナに袋を手渡す。
「アルティナ様。丁度良いと思って、この前寸法を合わせた制服を、一着だけ持参して参りました。後は宿舎の部屋を整えましたら、そちらに収納しておきますので」
「ありがとうございます。ですがナスリーン様、今後は部下になるのですから、私の事はアルティナと呼んで頂いて結構ですよ?」
「アルティナ様は、まだ部下ではありませんから。勿論、部下になったら、遠慮なくそう呼ばせて頂きます」
「はい、宜しくお願いします。それでは皆様、こちらへどうぞ」
受け取った荷物を執事に渡したアルティナは、ナスリーンと連れ立って移動を開始した。そして楽しげに話している女二人の後に付いて男達も移動を開始したが、黒騎士隊隊長のチャールズが、ケインに囁いてくる。
「おい、ケイン。確かに顔はアルティンと酷似しているが、どう見ても普通の女性にしか見えないんだが?」
「あの話は本当なのか?」
「俺達を担ごうとしていたら、承知せんぞ?」
直属の上司に加えて、他の隊長達も疑惑に満ちた表情で詰め寄ってきた為、ケインは呆れ気味に溜め息を吐いてから言い返した。
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